女の悦び

オジー男だけが,女に,女の悦びを味あわせることができる。

Qantas航空21便。言わずと知れたシドニー発成田行きである。
その21便,台湾の付近を迷走中の台風を避けるコースを取ったつもりだったが,台風が急激かつ予期せぬ方向転換をしたため,なんとその,まん真ん中に突っ込んでしまった。さらに悪いことに,片翼に落雷し,エンジンが一基停止。

乗客の一人の女性は完全にテンパッてしまった。

「キャー,いやー!いやよ,いや!いや!」
彼女は叫びつつ,通路のまん前に立ち上がり,乗客に向かって振り返るとこう叫んだ。
「私,死にたくない!こんな若いのに,死ぬには早すぎるー!」
そして,思い余って,
「どうせ死ぬなら,その前に,思い出作りをしたいの。お願い!誰か,私に女の悦びを味あわせて!」

一瞬の静寂。乗客の目は,前方に立ちはだかるその女性に釘付けになった。

すると,最後尾に座っていたオジー男がスクっと立ち上がったのだった。

その男は(オジーにしては珍しく)すごいハンサム。長身でがっちりとした身体つき,ダークブラウンの髪の毛に,栗色の目。申し分のないイイ男だった。

大またで通路を前へ。

前に立つ女に歩み寄っていく。

そして,歩きつつ,ゆっくりと,シャツのボタンを外していった。

ひとつ,また一つ。

他の乗客は,凍りついたように動かない。

シャツを完全に脱いだ。

強靭な筋肉に包まれた,分厚い胸が露わになった。

その胸に視線を吸い寄せられた女。

その女の目を見つめ返す男。

「…」

女はため息をついた。もう気絶寸前だ。

「…」

そして,男は,低い声で,おもむろに言った。

「これ…アイロン掛けとけ!でもって,俺には,ビール持って来い!」

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