家宝

誰にでも,宝物がある。
我が家にもいくつかあるが,「有名人のサイン」というのも,典型的な宝物だ。古くは,F1ドライバー,ステファン・ヨハンソンのサイン。1987年,鈴鹿で初めてF1GPをやったとき,観戦帰りの名古屋駅のホームで偶然遭遇。F1のプログラムの彼の紹介ページを開いて,そこにサインしてもらった。
無表情で,黙々とサインしていた。「しょーがねーなー」って態度だった。そりゃそうだよね。レースが終わって,もう何もしたくないだろうに,所要でその日のうちに東京に向かっていった。ひょっとしたら,さらに成田まで足を伸ばし,その日の夜,あるいは明朝の飛行機で何処かへ飛んでいったのかもしれない。 続きを読む 家宝

Dralion

この週末,本日月曜日がQueen’s Birthdayで祝日。3連休である。
連休の中日,昨日の日曜日にCirque du SoleilのDralionを見に行った。
Cirque du Soleilは我が家の恒例行事となっており,Cirque du Soleilのメルボルン公演はすべて見ている。

Cirque du Soleil,英語にすればCircus of the Sun,日本語で言えば太陽のサーカスである。
会場のテント。中央がパフォーマンスがあるメインのテント。他は売店などのテント群。背景に見える二つの大きな柱はCity LinkのBoltブリッジ。

カナダ生まれのこのサーカス,いくつかの世界巡業チームと,常設施設での興行がある。
巡業チームは,現在このDralionがメルボルン。このあと7月からニュージーランドのオークランドで公演する。


入口付近にあるDralionの横断幕。

日本では現在Corteoが名古屋で公演中のはず。その他,Aleglia(現在カナダ,北米),Kooza(北米),Ovo(カナダ),Quidam(ブラジル),Varekai(ポルトガル,スペイン,ドイツ,ロシア),Saltimbanco(北欧,ドイツ,フランス,ただしここ当分は北米)が世界中を回っている。そしてそれ以外にラスベガス(ネバダ),オーランド(フロリダ),マカオ,そして東京,正確には千葉県,東京ディズニーリゾートに常設施設を持つ。

ちなみに,Cirque du Soleil,日本では「シルク・ドゥ・ソレイユ」と表記されている。オーストラリアではどうか?
英語圏の人間は,他国語を平気で英語読みしてはばからない。たとえばスイスのチューリッヒは「ズーリック」とか読むし,ミハエル・シューマッハは「マイケル・シューマッカ」だし,グルジアは「ジョージア」だし,とにかく,現地の言葉を思いっきり無視している。まあ,これは日本でも同じ。重慶を「じゅうけい」と読む中国人はいないというのと一緒だ。
ところが,フランス語となると,話しが変わる。どうもフランス語は教養の一部という意識があるのか,あるいは,単なるコンプレックスなのか,一応はそれらしく読もうとするのである。したがってSoleilのところをなんとなくフランス語風に語尾を省略して,「サークィ・ドゥ・ソレイ」みたいな発音となる。

それにしても「シルク・ドゥ・ソレイユ」とは,誰が考え出したのか?まあ,それ以外のカタカナをあてると,文句を言うやつがたくさん出てくるのかもしれないけど,二つ問題がある。まずCirqueのRだが,フランス語のRの発音は,どうがんばっても日本語の発音にマップできない。強いてやるなら,「ル」は程遠い。むしろ英語読みのように「Cir」を「サー」ぐらいにしてしまった方がずっといい。そして,致命的なのが最後の「ユ」だろう。これはどっから出てきたの?確かに最後が「lle」なら「ユ」の発音になるけど,単独のLだったら無声となるのではないか?私はフランス語を習ったことがないので,定かでないが,多分これは正しいと思う。
ということで,英語読みに軍配が上がる。もっとも同じ横文字だから,英語読みの方が近いのは当たり前か。

さてさて,またもやカタカナ表記のまずさを指摘したくて,横道にそれまくった。本題に移ろう。

初めて見たのはSaltimbancoだった。約10年前,5歳だった娘にサーカスを見せてあげる,というありふれた家族サービスのつもりだった。ところがこれを見て,身が震えるほど感動した。何だこれは!?今まで見てきたサーカスとは,根本的に違う。アクロバットの難易度としては,たとえばボリショイサーカスといった有名どころが世界のトップレベルかもしれない。しかし,それに勝るとも劣らない技量を持ち,これに生演奏,歌,踊りが見事に融和している。衣装やメークも,それぞれのテーマに合わせた凝ったもので,観客の目を釘付けにする。音と光のイリュージョンの中,ハイレベルなアクロバットが繰り広げられる。しかもアクロバットをやる人だけが舞台に出ているのではない,周りには,たくさんの演者がいて,踊り,歌い,あるいは様々なポーズを取り,全員がアクロバットを引き立てながら,ひとつの異空間を作り上げるために動いているのである。
これは大人を十分にうならせる,最高のエンターテイメントだったのだ。

それ以来虜となり,ほぼ2年毎にメルボルンを訪れるCirque du Soleilを見てきた。次がAleglia,そのあとQuidam,Varekaiと続き,今回のDralionが5度目となる。

今までは,全豪オープンテニスの会場,メルボルンパークにテントを張っていたが,今回からはドッグランドに最近できたハーバータウンというショッピングセンターのそばの空き地にテントを張っている。周りが殺風景だが,開発途上の地域だから,次回はもう少しましになっているだろう。

今まで見てきた中で,。どれが一番良かったかと,聞かれることがあるが,比べるのは難しい。一つだけ言えることは,Saltimbancoは最初に見たものだけに,ものすごい衝撃で,この衝撃を超えるものはそれ以後なかったということだ。しかしこれは単なる順番の問題という気がする。
音楽でいえば,Alegliaがすばらしかった。女性のシャンソン風の歌が良かった。ちなみに毎回音楽のCDも買っている。
衣装は,ちょっと薄気味悪い面があるものの,Varekaiのものがきれいだった。
道化はQuidamのものが面白かった。

アクロバットそのものについては,総合判断でどれが優れていたというのは難しいし,時間差があるから比較は無理だろう。やはりどんな演技が記憶に残ったかということになるだろう。
たとえばSaltimbancoは,どれも感動ものだったが,水色の衣装を着た女の子の演じるボールジャグリング(お手玉)が今でも忘れられない。確か片手に5個ずつ,合計10個のボールを使ったのではなかったか?ただのお手玉ではなく,空中に放り投げる代わりに,地面にバウンドさせるのが特徴で,ボールの軌跡がまるで白い蛇腹のようだった。

今回のDralionは,演技,音楽,衣装など非常にバランスの取れたチームだった。名前のDralionはDragonとLionから来ていると思われる。そこから想像されるように,中国のテイストを盛り込んだ衣装が目立った。また,演者に中国系の人が多く,今までで一番アジア人の多いチームだった。それだけに,力技よりスピード感,それも俊敏性と正確性を求められる演技が多かったと思う。

Dralion前半の目玉は,トランポリンか?正面の入り口の左右が巨大な金属製の壁になっていて,つかまる場所がいくつかあり,その下にトランポリンがある。ここを4-5人の演者が飛び跳ねては壁に戻る。左右入れ替わったり,飛びながら壁を走り,まるで重力が横向きになってしまったかのような動きをする。
後半のハイライトはなんと言っても輪くぐりだろう。台上に据えられた直径50cmぐらいの筒を,次々と頭から,足から飛び込んだり,宙返りの最中にすり抜ける。これは見ていて楽しい。実は珍しく失敗が2度も出たのもこの演技だが,失敗しても構わないと思わせるほど派手で,スリリングなアクロバットだった。

Cirque du Soleilは,いつも始まり方が独特で,時間になると,会場に紛れ込んだピエロがお客をからかったり,頭を撫で回したりして,だんだんに観客の注目を集めていく。また,しばしば舞台に観客を引っ張り上げて,いろいろやらせるのも共通だ。もっともこの観客はおそらくサクラだと思う。今回は,最初っから一人のおじさんがカモになっていて,チケットをピエロに破り捨てられたり,舞台でシャツを脱がされたりと,思いっきりサクラじゃなきゃありえないことをしていた。そうしたら,最終的にはスタッフの一人ということを認めてしまう演技をした。これは今までにはなかったことだ。まあ,いっそ最後はちゃんと,ばらしてくれたほうが潔い。


終わった後。背景に見える観覧車は,鳴り物入りで完成した南半球最大(?)の観覧車,Southern Star。営業開始直後,今年夏の猛暑で鉄骨のどこかに亀裂が入り,営業停止状態。復旧の見通しは未だ立っていない。

今回はCDとプログラムというお約束のお土産以外に,親子3人それぞれTシャツを一枚づつ選んで買ってしまった。経済刺激策の一翼を担ってしまった我が家であった。


左上から時計回りに,プログラム,メルボルン公演のスタッフ・キャストの顔写真付一覧,入場券,音楽CD