ムラテと処置(道玄坂病院4F整形外科病棟物語③)

今回は,非常に下品な話をする。お上品なあなたは,ここで読むのを止めておいた方がいい。
ま,一回目の「テイモーとカンチョー」も下品だったけど,今回のは下品に併せて無礼で不適切な表現があるかもしれず,昔あった事実を元にしているとはいえ,読む人によっては怒りを覚えるかもしれない。気分が悪くなったら,すぐにでも読むのを止めていただきたい。ただでさえ,ムスコさんが毎朝お元気なワルガキ軍団。勢い興味は女性問題一色だ。そして,身近にいる共通の女性は看護婦さん(ここでは,当時の呼び方を使いますのでご了承ください)である。

整形外科病棟の看護婦さんは,何人ぐらいいただろう?ざっと思い出すだけで6-7人だから,影が薄かった人などを含めれば,10人ぐらいいただろうか?もっとも顔ももうおぼろげにしか思い浮かばないし,名前なんか全く覚えていない。

婦長(これも当時の呼び方でいきます)は50代のコロっとしたおばさんで,見たことはないが,ものすごいヘビースモーカーだとう噂だった。いつも首が小刻みに揺れており,高血圧なのではないかと,見ていてハラハラする。

もちろん,この方はワルガキにとって「対象外」なのだが,中にはなかなかの美人。あるいはかわいい看護婦さんもいたりする。慣れてくると,他にあまり比べるものもないので,彼女たちの体感美人度,体感かわいい度がだんだんにアップしてくる。長く入院していたりすると,もう虜になってしまったりもする。

さてさて,ここまで書いていくと,男ならすぐに気がつくことがある。
一体,長い入院生活の間,あっちの欲望の処理はどうしているのか?

毎日抜かないとたまってしょうがないような若者ばかりであって,これははっきりいって,大問題だったりする。
昼間は話をするぐらいしかやることがないので,やがてはそういう話題にたどり着く。

センパイは平気な顔でこういった。

センパイ:「なーんだ,かしらー,我慢しちゃだめっすよ。トイレで,抜いてくればー」
カシラ(私です):「えー,トイレったって,他の人入ってきちゃうジャン。」
センパイ:「大丈夫だいじょーぶ,誰も覗いたりしないって。」

ところが,車椅子を使っている人用のトイレにはドアがない。だって,あったって,どうせギプスで固めた足はドアからはみ出て閉められないのだ。で,車椅子用のボックスには,ドアの代わりにビニール製の縦長の帯がたくさん下がったすだれがかけてある。
入り口で車椅子から降り,ケンケンをして便座に座り,ギプスで固めた足を,すだれからはみ出させて,車椅子の座席に置いて,用を足すのである。

カシラ:「いや,だって,足がはみ出てて,密室にならないじゃん。
センパイ:「まあ,そういうときには,なるべく他の人は入らないという仁義があるんっすよ。」
カシラ:「うーん,そうはいってもなー」

カワちゃん:「おれはね,この間まで寝たきりだったから,布団の中でしてたよ。」
センパイ:「おおっと,さすが高校生,寝たきりでも我慢できんか?」
カワちゃん:「そらそうっしょ」
カシラ:「しかし,その後の始末どうするんだよ?」
カワちゃん:「紙袋かなんかに入れて,ゴミ箱にすてちゃえばいいじゃん。」
カシラ:「そ,そうだよな。おれもそうしてた….」
カワちゃん&センパイ:「….」

カシラ:「…で,でもさあ,トイレでするよか,いいんじゃないの。」
センパイ:「いやー,一長一短なんだな。だって,布団の中ってことは,消灯後でしょ。」
カシラ:「うん」
センパイ:「ってことは,ライト点けられないから,おかずが見れないじゃない。まあ,絶対点けちゃいけないわけじゃないけどさ,長い間点けてて,雑誌がめくれる音とかしちゃったら,バレバレでいやじゃん。」

トイレでするって宣言している人が足出してたら,これだってバレバレだと思うのだが。

カワちゃん:「そうだよねー。あ,先輩,こんど先週出たGORO貸してくださいよ。」
センパイ:「いいですよー,手洗ってね。」
カシラ:「げー,何なんだ,この関係は!気持ちワル!うーん,とにかくトイレはちょっとなー」

というわけで,トイレ派,布団派,両刀使いと3種類の若者がいることが分かった。

さて,またまた男だと疑問がわいてくるだろう。布団派は,いったい誰をおかずにしているのか?
まあ,いろいろだろうけど,冒頭に書いたように,入院生活が長くなると,看護婦さんの一部はもう憧れの的になってしまっている。従って,日ごろお世話になりながら,大変,タイヘン失礼ではあるが,看護婦さんに「アテて」しまう場合がままあるのである。悲しい男のサガと思い,勘弁してやって欲しい。

ところで,看護婦さんにも人気の的と,そうでない人がいるのは,仕方がないことだ。さらには,人気の的とは正反対という人もでてくる。
整形外科病棟で一番不人気だったのは,ヤエコというアラフォーの看護婦さんだった。太ってはいないので,スタイルは悪いとはいえないが,魅力的というには程遠い。いつも無表情で,とにかく感じが悪く,意地も悪かった。何かというと「処置します!」というのが口癖だった。
「すみません,この包帯はずしてもいいですか?」
「処置が終わるまではだめですよ。」
「あのー,ここが当たって痛いんで,位置かえてもらえますか。」
「わかりました。これが終わったら処置します。」
こういう口調であった。

ヤエコのニックネームは「ムラテ」だった。いつも紫色のゴム手袋をはめているのだ。トイレを掃除したゴム手で配膳もやっているのではないかと,みんな嫌がった。紫のゴム手,さらに縮めてムラ手である。

さて,ある日,午前中の行事が一段落して,あとは昼飯を待つばかりというとき,いつものようにワルガキ軍団が集っていた。
マキさんが,どうも浮かない顔をしている。

センパイ:「いやー,夕べはミキちゃんにアテコキしちゃったよー。興奮しましたよー」
マキ:「…」
センパイ:「どうしたのよマキちゃん,元気ないね」
マキ:「うーん。ちょっと,気分がよくなくってね」
カワちゃん:「どうしたの」
マキ:「うん,まあ,夕べさあ」
全員:「ふんふん」
マキ:「こいてたわけよ」
全員:「ふんふん」
マキ:「ところがどういうわけか,いいところで,突然,頭の中にムラテがでてきちゃってさ」
全員:「ぎえー!」
マキ:「必至で消し去ろうとしたんだけど」
全員:「…」
マキ:「なかなか消えなくて…」
全員:「…」
マキ:「ああー,消えろ!消えろと念じたのに,頭の中から消えなくって。」
全員:「…」
マキ:「き,消える直前に…」
センパイ:「まさか….」
マキ;「い…逝ってしまいました。」
カワちゃん:「おえー,ムラテにアテコキしちゃったってこと?」
マキ:「うん…」
全員:「ぎょえー!」

布団派は修行が必要である。

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