アルバートパークの奇跡

遅まきながら,今年のF1オーストラリアGPについて

結果はご存知,途方も無いことが起きたものだ。予選も決勝もBrawn GPのワン・ツーである。完勝だ。こういうのを奇跡というのだろうか?ブロウンは,つい最近出場の目途が立ったばかり。オフィシャルプログラムには,マシンもドライバーの二人も一切出てこない。プログラムに載っていないチームとドライバーが予選も決勝もワン・ツーというのは前代未聞である。

実は,今年は,観に行こうか,どうしようか,迷っていた。
行くなら予選。決勝はテレビでゆっくり観戦というのがいつものパターンである。
しかし,ひいきのホンダも撤退したので,見に行く価値があるかどうか。
うちの家族はF1はテレビ観戦と決めている。一人で行くとなると,場所取りが大変だ。
いいところは,予選前のプラクティスセッションで押さえておき,そのあと2時間以上,予選が始るまで,動かずに待つしかない。トイレにも行けない。そうまでして行く価値は,今年はないかな。と思っていた。

と,木曜日に,思わぬところからお誘いというか,お伺いが来た。1月のブログに登場した,大学の後輩のA子さんが,私が行くなら一緒に行きたいとメールしてきたのだ。
じゃあ,行くか!ということになった。

やっぱり,F1グランプリ観戦は,美人と行くというのがお約束だ。妻,娘を除くと,美人と一緒にF1観戦は,今回が3回目である。F1追っかけしてると,こういう,いいこともあるのである。

しかし,追っかけやってるなんていっても,最近仕事が忙しくて,ついF1情報の収集を怠っていた。ブロウンGPの存在は,予選当日に知ったという始末である。な,なんだこれ?もしかしたら,ホンダチームについに買い手がついたのか?

あわててWebで調べた。そうか,ロス・ブロウンが買ったんだ!なんと私財を投じてチームを買ったというではないか!お金持ちだねー。

などと,予選当日に感心している始末。これじゃあ,まるで素人のおっさんである。
まあ,私の専門は,70年代から80年代にかけての空力テクノロジーの進歩と,それに伴うチームの栄枯盛衰であるから,最近のことは,素人にちょっと毛が生えた程度しか詳しくないのである。

もっともA子さんは,ズブシロであって,どんなに突っ込まれても,困ってしまうような質問は出なかったのでひと安心であった。なにしろ,F1GPというのはメルボルンで年に1回だけ行われるイベントで,それがすべてだと思っていた人である。

会場に着くと,まずは地図を示し,観戦ポイントを説明。私が気に入っている場所2箇所に連れて行って,彼女が気に入った方に腰を落ち着けた。二人連れだと,場所を確保したまま,交代で買い物したり,トイレに行ったりできるので,本当に楽である。

今回見た場所は,ターン9直前のコース脇。ゴルフコースでいうと,第4ホールフェアウェー左の土手である。そこでコース沿いギリギリまで接近すると,マシンが5m以内を通過する。もっとも下半分はコンクリートウォールに阻まれ見えないが,迫力満点だ。ターン7,ターン8は緩やかなカーブなので,ターン6コーナー出口からターン7(左コーナー),ターン8(右コーナー)と,コース幅いっぱいに使えば,加速し続けられる。そしてターン9は右曲がりシケインで,ターン10左きつめのコーナーへと続いていく。したがって,この観戦ポイントではターン8を出てきたマシンがものすごいスピードで加速しつつ近づいてくるところから,ターン9進入に備えて7速から2速にシフトダウンしつつフルブレーキングするところが目の前で見え,ターン9に切り込んで,再び加速しつつ,ターン10出口を抜けていくところまでが見える。自由席で,マシンを見ていられる時間としては,これ以上ない好条件。欠点は,スクリーンが斜めにしか見えず,映し出されるタイムなどは判読不可能ということ。それでもスクリーンが見えるだけマシではある。

ここの背後には,小さいながら,売店がいくつかあり,食べ物飲み物の調達も便利。あまり,おいしいものは期待できないが,他と比べても,空いていて,土曜日なら待たずに買えるところがいい。トイレもすぐそばで,まさに,美人を連れ込む,じゃなかった,連れて行くのに最適の場所であろう。今まで少なくとも4-5回は,ここに足を運び,試行錯誤したかいがあったというものである。

ちなみに,私のもう一つのお気に入りポイントは,このターン10の左脇の土手である。マシンが見え始めるのは,やはりターン8出口付近からだし,何といってもいいのは,スクリーンが真正面にあり,状況が良く分かることだ。ただ,一番人気のポイントで,場所取りが大変なのと,マシンからかなり離れたところでしか見られないという欠点がある。

午後2時から3時までのプラクティスセッションと,続くフォーミュラフォードのレース,オーストラリアンGT(フェラーリ,ポルシェ,ランボルギーニなど)レース,そして5時からのF1クウォリファイセッションを観た。

2年前もこのあたりで観戦して,同じことを思ったのだが,ここのコーナーは,ルノーが一番速いのではと感じる。シフトアップポイントが,他のマシンより速い。姿が見えなくなる前に5速に入るのはルノーだけなのだ。あとは,良くて,姿が消える瞬間ぐらいに5速に入る。これだけを材料にすると,ルノーなのだが,実際の結果はそうはならなかった。
マシンの音にかき消されながら,ときどき聞こえるアナウンスが,バリッチェロ1位を伝えている。聞き間違いだと最後まで思っていたが本当だった。そして,セッション終了間際にバトンがポール奪取。できすぎだ。信じられない。どうなっているんだ!
確かにブロウンの加速は良かったように思う。ただ,トラクションコントロールがうまくできず。ときどきわずかにケツを振っていたように思う。もっともさっきも書いたように,一つのコーナーだけ見て,全体のタイムは計りえない。まあ,フォースインディアが遅いというのだけは,はっきり分かったけどね。

A子さんは,前座レースも含めて,まあまあ楽しんでくれたようで,何よりであった。

翌日の決勝。バリッチェロはスタートをミスったため後退。しかしバトンは始終危なげない走りをした。最後のピットインで,ピットクルーが給油するかどうか躊躇して,タイヤ交換が出来上がったあたりで,ようやく給油を始め,ピットストップが10秒を大きく上回ったこと。これが,唯一のピンチだったが,幸い1位で復帰。そして,土壇場で2位のヴェッテルに3位のクビッツァが突っ込んで,両方リタイヤ!
するってえと2位は?げええ!バリッチェロじゃないの。またもやワンツーだー!
セーフティーカーが入ったままレースが終了。「信じられない!」を100回ぐらい連発してしまった。

ブロウンの何が良かったのか?一つには,バトンののスーパースムースな走りが,今年改正されたレギュレーションに合っているのであろう。しかし,そんなことで片付くことではない。なにしろ,つい3週間前にシェイクダウンしたばかりのマシンなのだ。

ホンダは頭が痛いだろう。世間の目,素人の目で見れば,エンジンをメルセデスに変えたら,去年のブービー賞チームがいきなりトップにのし上がったわけである。これはホンダにとっては,本当に痛い。しかし,モータースポーツファンの期待に答えられず,いきなり風をくらって逃げ出したバチがあたったのではないだろうか?ホンダは,逃げてはいけなかった。それは,ホンダという会社のアイデンティティーを破壊する行為だった。撤退するなら2年前に潔く身を引き,再起を図るべきだったろうと私は今でも思っている。

とにかく,レギュレーションの大幅な変更で,まだどのチームも最適解を見出せていない,その間隙を縫って,オーソドックス,シンプルを旨に作ったマシンが功を奏したとしか思えない。もちろん,ホンダチームの遺産という言い方もできるが,シャーシ開発はロス・ブロウンを中心とするイギリスサイドの仕事であって,ホンダ本社の功績とは言いがたい。そして,あとで確認して分かったことだが,ホンダが開発していたKERSも未搭載であるとのことだ。

去年までのホンダがうまく行かなかったことは,ホンダ本社から派遣されていた日本人スタッフと,イギリスを本拠とするヨーロッパの人間達とのコミュニケーションギャップに原因があったのではないかと,私は想像する。ホンダチームと言っても,所詮はエンジン屋のホンダ本社と,シャーシ屋,元BARのスタッフの混成チームだったのだ。シャーシ屋とエンジン屋が,喧嘩するようにして,議論しながら,いいマシンを育てていくのである。ホンダ側から派遣されていた人間が弱すぎたのではないか。やはり,あの桜井淑敏さんのような,カリスマが出ないと,ヨーロッパの人間とまともに渡り合えないのである。

まあ,なんにせよ,おめでとうジェンソン!フェラーリ,マクラーレンは,必ず這い上がってくるだろうけど,これからもスーパースムーズな走りを見せて欲しい。今年は行けるぞ!

ということで,ホンダはいなくなったが,私はこれからもこのチームを応援することにする。
次期主力戦闘機については,ホンダを候補からはずそうかと,真剣に悩んでいる。
え?メルセデス?誰か買ってよ!

 

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